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拓郎が鈴森神社に帰るとちこが真っ先によって来て、
「どうしたの?朝はばっちし決めてたのに、そんなに寄れちゃって・・」
ちこは拓郎の寄れたスーツを出掛ける前のようにピシッとさせようとする。
だが、スーツの中身、拓郎自身がきちんとするつもりがないのもあって、スーツは寄れたままである。
ちこは拓郎を、いつものように長椅子に寝転がったホウキと、そんなホウキを扇いでいるアフグのもとに引いていきながら、
「大変なことでもあったの?」
「ああ、そうなんだよ。実はね・・」
ちこが心配げに聞いてきて、拓郎はこくりとうなずき事情を話そうとしたところで、
「『佳奈美ちゃん』はいなかったのか?」
「そう!そうなんだよ!」
割り込んできたアフグの言葉に拓郎は大きくうなずいた。
せっかく佳奈美に会えると思ってビシッと決めていったのに、話し合いの席に佳奈美はおらず、いたのは東山悟と別の女性、それに弁護士と名乗る男だけだった。
「仕方がないから、佳奈美ちゃんにあげようと思っていたうちのお守り売ってきた」
「何商売してんだよ」
「それが詐欺だって訴えてきてんでしょ?」
いつものようにアフグもちこも呆れた声を出す。だけど、
「あげたら、賄賂になっちゃうだろ」
「佳奈美にはあげるつもりだったんだろ」
「ホウキさんは痛いところを突いてくるね」
拓郎はそのままホウキの隣の長椅子に腰を掛ける。
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