もう一組の兄弟

8/16

42人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
      ◆  拓郎が鈴森神社に帰るとちこが真っ先によって来て、 「どうしたの?朝はばっちし決めてたのに、そんなに寄れちゃって・・」  ちこは拓郎の寄れたスーツを出掛ける前のようにピシッとさせようとする。  だが、スーツの中身、拓郎自身がきちんとするつもりがないのもあって、スーツは寄れたままである。  ちこは拓郎を、いつものように長椅子に寝転がったホウキと、そんなホウキを扇いでいるアフグのもとに引いていきながら、 「大変なことでもあったの?」 「ああ、そうなんだよ。実はね・・」  ちこが心配げに聞いてきて、拓郎はこくりとうなずき事情を話そうとしたところで、 「『佳奈美ちゃん』はいなかったのか?」 「そう!そうなんだよ!」  割り込んできたアフグの言葉に拓郎は大きくうなずいた。  せっかく佳奈美に会えると思ってビシッと決めていったのに、話し合いの席に佳奈美はおらず、いたのは東山悟と別の女性、それに弁護士と名乗る男だけだった。 「仕方がないから、佳奈美ちゃんにあげようと思っていたうちのお守り売ってきた」 「何商売してんだよ」 「それが詐欺だって訴えてきてんでしょ?」  いつものようにアフグもちこも呆れた声を出す。だけど、 「あげたら、賄賂になっちゃうだろ」 「佳奈美にはあげるつもりだったんだろ」 「ホウキさんは痛いところを突いてくるね」  拓郎はそのままホウキの隣の長椅子に腰を掛ける。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加