42人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
悟の言葉を遮って、いつものニコニコ笑顔で言ってくる拓郎。
いきなり拓郎の口から出た弟の名に悟は一瞬言葉を詰まらせた。
もちろん、弟の透が鈴森神社によく行っていることを悟は知っている。
この前だって、ヒオウギを鈴森神社に連れていかせた。
だから拓郎が透を知っていてもおかしくはないし、苗字が一緒で、現れた時期が一緒なら家族だと思うのが普通だ。
だけど、わざわざ地元をちょっと外れたこの場所で、二人きりで透の話を出してくるということは、透の不運を呼ぶ体質に感づかれたのかもしれない。
仕事相手に気付かれたことはなかったが、拓郎なら気付きかねない。
「透が、何かしましたか?」
「透君って触った相手を怪我させることができるんだね。商店街の人たちがこれを知ったらどうなると思う?」
悟は無意識のうちに、歯をくいしばって、指先の絆創膏を強く擦る。
「脅しか?やりたきゃ好きにすればいい」
思わず漏れた言葉。
そして、拓郎を、今もニコニコ笑顔を浮かべる気色悪い男を睨みつけた。
「だけど、俺は透を傷つける奴は絶対に許さない」
その言葉も無意識のうちに出たものだった。
だけどその言葉を撤回する気も取り繕う気もさらさらない。
ただ、険しい目つきでニコニコ笑い続ける拓郎を睨みつける。
「そうか、そうか。まだ救いようはあるみたいだ」
拓郎は悟の睨みなど全く気にする様子もなく、一人で何かを納得してうなずく。
「とりあえず、商店街の人たちはもうほとんど知っているだろうけど、あの程度の怪我を中学生の責任にするような人たちじゃないから安心しなよ」
「なっ!?もう広めやがったのか!?」
「広めたも何も、透君が皆の前で言っちゃってたから」
「透が?・・・」
まさか、透が自分からそんなことを言うはずがない。
最初のコメントを投稿しよう!