42人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
悟は思わず怒鳴っていた。
拓郎の年の功を利用した上から目線が気に食わない。
拓郎よりも半分近く悟は若い。
それでも若いから未熟だと、これまでの自分の頑張りを馬鹿にされたような気がして、無性に腹が立った。
強く擦りすぎた絆創膏に爪が引っかかる。
自分は透のために尽くしている。
食事を用意して、出来る限り一緒に食べるようにして、不自由ないよう、行きたい高校へ行かせられるよう働いて稼いで、話しかけて、でも、透は自分を避けるのだ。
「いっ・・」
絆創膏が外れて傷口が開いてしまい、溢れ出た血液を舐める。
舐めながらも、頭の中を支配するのは透のこと。
しつこくされるのが嫌な時期は自分にもあったから、あまりしつこく話しかけないようにもしてみて、だけど透はどんどん自分を避けていって・・。
悟はそのまま指先を噛む。
もう、どうしたらいいのかわからなかった。
悔しかった。
自分独りでも何とかできると思っていたのに。
親代わりになれると思ったのに。
悔しくて悔しくて悔しくて、気づけば悔し涙が流れていた。
こんな変態かつ異常なニコニコ気色悪い笑顔を浮かべたオヤジに悩みを見透かされて、泣き姿まで見られて、さらに悔しくて、涙が止まらなかった。
悔しさのあまり、涙を流しながら拓郎を睨みつけると、拓郎はいつものニコニコ笑顔がまた少し変わって、恍惚とした喜びを味わっているように見える。
「何だよ!」
涙のせいでかすれた声でその表情を非難すると、拓郎は幸せそうに言葉を返してきた。
「強気で勝気な人間が弱弱しくなる瞬間を見るのが、私の一番の楽しみなんだ」
「・・・・・変態が!」
悟は何とかそれだけ言い放ち、本気で涙を止めにかかった。
一分も待たずに涙が止まってきて、手首の方まで流れていた血液をおしぼりで拭ったところで、拓郎が再び話しはじめた。
最初のコメントを投稿しよう!