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「あつい・・・」
ホウキは本日はいつもの長椅子ではなく、縁側に寝転がっていた。
アフグはちこの買い物に付き合って出かけ、拓郎も悟を泣かしてくると意気込んで出かけてしまって、ホウキだけが留守番である。
「あつい・・・」
ホウキはまたつぶやいた。
やっぱりちこの買い物にアフグと一緒に行けばよかったと思うも、この森の外のうだるような暑さを想像し、ため息をつく。
神社の外に比べたら、神社の中の方がはるかに涼しい。
ただ、今日は気持ちのいい風が吹いておらず、熱がこもってしまっているが。
ホウキは手に持った風鈴に息を吹きかけ鳴らし、少しでも涼しい気持ちになろうとした。
でも、すぐに疲れてやめてしまった。
風鈴を転がしながら寝返りを打てば、冷やりとした床が身体から少しだけ熱を奪っていってくれる。
その涼を目をつぶって堪能し、床が温まってきたので、また位置を変えようと動いた時、
「クロタケホウキさん」
その女はいた。
長い黒髪を頭の後ろできれいに結いあげ、知的然とした眼鏡の奥の気の強そうな瞳をこちらに向けている。
確か、拓郎が騒いでいる『佳奈美ちゃん』だ。
このうだるような暑さの中できっちりとスーツを着込んだその姿にホウキはさらに顔をゆがめて寝転がったまま、
「オレに何か用か?」
「あなたの持つ、その黒竹箒について調べさせてもらいました」
ホウキはまた大きなため息をつくと、体を起こし、傍にある黒竹箒をさらに体の横に沿わした。
佳奈美は言葉を続けた。
「この土地に伝わる『黒竹箒を持った少女』を読みましたが、」
「ああ、あれか」
『黒竹箒を持った少女』は鈴音の幾つ目かの子孫が黒竹箒を題材に作った物語である。
「他の地で見た文献とずいぶん違いますね」
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