42人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
佳奈美の中で溜め込んで、抑えこんできた気持ちが、渦巻きながらせり上がってくる。
私はこんなにも優秀で、別にまだそこまで年もとっていないのに、会社の奴らは何で売れ残りのような目で私を見るの?
彼氏がいるからって何が偉いのよ!
仕事もできない、給料の低い、ボンクラどもが!
羨ましいでしょ?
私は優秀だから、若くて将来有望な東山君と一緒に働けるのよ。
でも、彼の思う通り動き、彼の思う以上の結果を出しているのに、彼は役にも立たない厄病神な弟のことばっかり考えている。
あの弟さえいなければ、彼はもっと自由に生きられて、もっともっと幸せになれる!
私が彼を幸せにしてあげられる。この私が!
この私が、あんな不必要な弟消してあげる……
佳奈美はきれいに結いあげていた髪をほどいた。
ふわりと髪は背に落ちて、頭が軽くなる。
高いヒールの靴も脱ぎ捨てた。
首までしっかり締めていたスーツのボタンも外し、暑苦しいスーツの上着も脱ぎ捨てる。
鞄から携帯電話を抜いてから、その鞄をぽいっと捨てる。
そして佳奈美は電話をかけた。
数回のコール音の後、悟に似た、だけど悟よりずっと幼い声が聞こえた。
「篠原ですけど、悟さんが透君に鈴森神社に来てほしいって言っているの。今から来られるかしら?」
受話器の向こうで、少年のくぐもった声が「わかりました」と告げた。
ハハッ、アハハハ……
鈴森の地に女の笑い声が響く。
佳奈美は電話を切ると、堪えていた笑いを思う存分高らかに声に出して笑った。
最初のコメントを投稿しよう!