黒竹箒の狂気

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 佳奈美の中で溜め込んで、抑えこんできた気持ちが、渦巻きながらせり上がってくる。  私はこんなにも優秀で、別にまだそこまで年もとっていないのに、会社の奴らは何で売れ残りのような目で私を見るの?  彼氏がいるからって何が偉いのよ!  仕事もできない、給料の低い、ボンクラどもが!  羨ましいでしょ?  私は優秀だから、若くて将来有望な東山君と一緒に働けるのよ。  でも、彼の思う通り動き、彼の思う以上の結果を出しているのに、彼は役にも立たない厄病神な弟のことばっかり考えている。  あの弟さえいなければ、彼はもっと自由に生きられて、もっともっと幸せになれる!  私が彼を幸せにしてあげられる。この私が!  この私が、あんな不必要な弟消してあげる……  佳奈美はきれいに結いあげていた髪をほどいた。  ふわりと髪は背に落ちて、頭が軽くなる。  高いヒールの靴も脱ぎ捨てた。  首までしっかり締めていたスーツのボタンも外し、暑苦しいスーツの上着も脱ぎ捨てる。  鞄から携帯電話を抜いてから、その鞄をぽいっと捨てる。  そして佳奈美は電話をかけた。  数回のコール音の後、悟に似た、だけど悟よりずっと幼い声が聞こえた。 「篠原ですけど、悟さんが透君に鈴森神社に来てほしいって言っているの。今から来られるかしら?」  受話器の向こうで、少年のくぐもった声が「わかりました」と告げた。  ハハッ、アハハハ……  鈴森の地に女の笑い声が響く。  佳奈美は電話を切ると、堪えていた笑いを思う存分高らかに声に出して笑った。
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