黒竹箒の狂気

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      ◆  透は鈴森神社に到着した。  数日ぶりに来た鈴森神社は風がなく、熱がこもっているような気がする。  ただ、それでもやはり鈴森の外に比べれば冷やりとしているのだが。  透の後ろには、暇だからとヒオウギが付いてきている。  アフグの事もあって置いていきたかったが、縛り付けて置いていくわけにもいかず、ついてきてしまったのである。  石段を上りきってすぐ、異常が透の眼に入ってきた。 「うわー、これはひどい」  透が言葉を失っていると、後ろのヒオウギがつぶやいた。  鈴森神社はひどく荒らされていた。  賽銭箱はひっくり返されて、閉まっているはずのお守り売り場は窓ガラスが割られて、商品のお守りが散らされている。  ホウキがいつも寝転がっている長椅子の多くも蹴り飛ばされたように乱されている。  その長椅子の一つに、こんな状況であるのに悠然と、黒竹箒を片手に握りしめたまま寝転がっている女がいた。  うつぶせで寝ているため、顔はよく見えない。  でも、ホウキではないことはわかった。  結わずに乱れた長い黒髪は、ホウキほどは長くないし、着ている服もワイシャツにスーツのスカートという、絶対ホウキが着ないような服である。  なのに、黒竹箒を持っているせいか、透にはホウキもそこにいるような気がしてしまう。
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