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「おい、ここは誰か呼んだ方がいいんじゃないか?」
透が恐る恐る女に近づいていくのを引きとめるようにヒオウギが言ってくる。
ヒオウギは不穏な空気を感じ取っているのだろう。
それは透だって同じである。
だけど、気になって仕方がないのだ。
だから、透はそのままヒオウギの助言も聞かず、女に近づいて、
「あの、もしかして、篠原さんですか?」
声をかける。
最初、女は微動だにしなかったが、クスリと笑い声が聞こえたかと思うと、
「透君、よく来てくれたわ。じゃあ、さっそく・・・」
女はむくりと起き上がる。
そして、正気を失っているような異常な笑みを透に見せて、
「死んでくれるかしら」
いつもとは全く様子が違うが、たぶん篠原佳奈美であろう女が黒竹箒を大きく振った。
透はもちろん、傍にいたヒオウギも巻き込まれ、二人は掃き飛ばされた。
いつものように痛みは感じなかった。
だけど、いつもと違って、気持ちが落ち込んでいく。
いつもなら、何だかんだ大声出して、ホウキに文句を言っているのに、今は声を出す気力すら起きない。
ひどく、息苦しい。
妙に静かなこの場所で、自分の心臓の音が聞こえる。
そして、自分が息を吸っていること自体、自分の心臓が鼓動を打っていること自体が許されないことのように思えてくる。
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