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「透君、貴方もわかっているのでしょう?東山君、いえ、貴方のお兄さんにとって貴方がどれほど邪魔な存在であるか」
わかってる。
そんなことわかってる。
せっかく入った有名大学を辞めてまで働いて、恋人も作らず、友人とも遊ばず、俺の傍にいて、食事だって作ってくれて、
だけど、俺と一緒にいるから、いつも包丁で手を切ったり火傷して、それでも『俺って料理下手なんだな』って透を責めなくて、
兄貴の指先にはいつだって絆創膏が貼られてた。
治っては傷ができての繰り返しで、指先から消えることのない絆創膏。
兄貴の手に絆創膏なんて似合わないのに・・
だから透は兄を避けるようになった。
自分の人生を生きてほしかったから。
透が兄を避ければ、初めのうちはそれまで通りいろいろ言葉をかけてきた兄も、そのうち透に接することが少なくなっていった。
自分から避けたのに、やはり兄にとって自分は不必要な存在であることを思い知らされた気がして、それなら早く切り離してほしくて、もっと兄を避けるようになった。
「貴方のお兄さんはね、とても優しい人なのよ。貴方が避けるだけじゃ、たった一人の弟を切り離すことなんてできないわ。避けるだけじゃダメなのよ。貴方は自分から消えなきゃいけなかったの」
佳奈美が透の心を見透かしたように言ってくる。
「今からでも遅くない。いいえ、これ以上先延ばしにしてはならない。お兄さんに迷惑かけたくないのなら、貴方は今ここで自ら死ぬしかないの」
「俺は、・・死ななきゃ、ならない・・」
「ええ。あそこに、包丁を用意しておいたわ。それで、貴方はお兄さんに償うのよ」
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