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佳奈美は、先ほどまで彼女が寝転がっていた長椅子を指し示す。
そこには確かに包丁が置いてあった。
透はぼんやりとそれを眺めた。
俺は死ななきゃならない。
それでも、それでも自分は・・・
冷えてく心と、諦めず燃えようとする想いがせめぎ合って、旨く呼吸ができない。
そのせいで、変な呼吸音が響く。
「な、何なのこれ!」
「ホウキを放せ!」
冷たい風が吹き抜けた。
でも、その風は透の心の重くのしかかるものを吹き飛ばすどころか、それを冷えて固まらせただけ。
それどころか、頭が冷えて、心が冷えて、兄のためにも死ぬべきだと冷静に考えられる。
諦めない想いが冷えて、もういっかと全てを捨てられる。
そして、透はおぼつかない足で立ち上がり、狂気な笑顔の佳奈美に見られながら、ゆっくり、ゆっくりだが確かに、動きだした。
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