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檜扇がもう一人の自分だと思い続ければ、自分は作り替えられ生まれ変わったのだと思えば、自分は必要とされて愛されているのだと思うことができた。
「姫様に、職人に要らないとされたことを認めろって言うのか?」
「そういうことに、なってしまうかもしれません。でも、私にとってカワホリアフグとヒオウギは別人です。そして、この町の人たちにとっても、カワホリさんとヒオウギさんは別の存在です」
ちこはそっとアフグから手を放した。
「だから、安心して下さい。ヒオウギさんがここに来て、もしヒオウギさんがこのままここに居座ることになっても、カワホリさんの居場所を取って代わることはできないんです」
ちこが明るくにっこり笑って、
「だって、そもそも蝙蝠扇と檜扇は使い道が全く違うんですから」
アフグの手に鈴音の鈴を渡してくれる。
ーー使い道が違うーー
その言葉が心に響く。
夏場の暑い時に、姫様はいつだって自分を使ってくれて、そして嬉しそうな笑顔になって、俺がいてくれて快適だと喜んでくれた。
それだけでアフグは幸せだった。
それだけでいいんだ。
自分は必要とされるために作られたのではない。
自分はあの方がより幸せに過ごせるように出来ればそれだけでいいんだ。
使えなくなるまで使ってほしかったけど、あの方が自分がいなくてもいいと言うのであれば、自分の役目はそれで終わり。
職人に託された仕事をきちんと終えることができた。
だからもう、姫様にこだわる必要はない。
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