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理不尽な姉
俺には二つ年上の姉がいる。
爪に火を灯すような生活を強いてくるくせに、強いた当人は仕事帰りにいつも酒とツマミを買ってくる理不尽な姉だ。
朝から晩まで働いて疲れているのは分るけど、せめて三十度の真夏日を扇風機一つで耐え凌いだ俺の目の前で、生ビールとつまみの唐揚げを淡々と食すのはやめてくれ、目障りだ。
姉は半袖のワイシャツと高校の体育のときに履いていた短パン姿で、ソファーを広々と独占している。
「なーに物欲しそうな顔してんのよ……」
姉は唇を尖らせて飲みかけの缶ビールを持ち上げた。
「飲む? 飲みかけで一口分しか残ってないけど、飲む?」
「的外れな上、未成年への酒の勧誘はやめとけよ、その発想はないわ」
「んじゃ要らないわね」
姉は寝たまま缶ビールを一気に飲み干した。
「ちなみに、お前もまだ未成年だからな」
「固いこと言うな。仕事で溜めたストレスをアルコールで洗い流すのは、私のライフワークなんだから。ある意味、これも仕事の一環なのよ。まだ学生やってるあんたには分らないだろうけど」
仕事の話を出されると、姉に養ってもらっている分際の俺は、何も言い返せなくなる。
家庭を顧みなかった両親と距離を取り、姉と二人で暮らすようになって約三年。こうして生計を立てて暮らせているのは、姉の頑張りあっての賜物だ。
だからって、自分の立場を出(だ)しに、わざと贅沢と仕事を一括りにして好き勝手する姉の卑怯さには、腹が立つ。
早いとこ用件を済ませて部屋に戻って勉強でもしよう。
「姉貴に相談……ってか、報告みたいなものなんだけど、とりあえずこれを見てくれ」
「進路希望書じゃない。あんたもこれを書く日が来たのね」
姉は感慨深そうに、俺がテーブルに置いたプリントのお題を読み上げた。
「で、これが何? 親への報告くらいなら安請け合いしてあげてもいいけど」
「んじゃそれも頼む。俺、大学行かずに就職するから、一応姉貴にも報告ってことで。まあ、それだけなんだけど」
繊細な話題なだけに切り出し辛かったけど、口にしてしまえばなんてことはなかった。
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