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「ちゃんと手当てしたか? 姉貴、顔は悪くない方なのに……。一応、女なんだから、こういう日は仕事休んでくれよ。仕事に対する情熱は尊敬ものだよ、だけどな姉貴はーー」
「あんた、何か悪いモノでも食べたの?」
「……は?」
「そこまで媚び諂(へつら)ってまでして、大学に行きたくないわけ? ……とにかく、気持ち悪いからやめなさいよ」
「…………はい?」
姉貴は意味不明状態の俺の脇をするりと抜けて、居間の方へ行ってしまった。
茫然自失、とはまさにこの事を言うのだろうか。肩透かしというレベルを超えた、霧に向かって全力で殴りかかっていたかのような、この手応えの無さはなんだ?
媚び諂うだって? 俺は純粋に心配で言っていただけだぞ。
釈然としないまま、姉の後を追う。
姉はソファーに腰を据えて、皿に広げた枝豆を見つめながら缶ビールのフタを開けるところだった。
まるで昨晩の出来事が嘘であったかのような、現実的過ぎる光景だ。
「突然、『大学行けー!』だなんて掴みかかって、悪かったわね」
「あ、ああ。それはもういいけど……。俺も悪かったし」
「だから、なんであんたが悪いのよ。悪いのは私でしょ?」
「いや、俺顔殴ったし」
「私があんたを怒らせるようなことしたからでしょ。私の自業自得」
そう言われてしまうと、たしかにそうなんだけど……。
「でも、酔ってた私にあんな物を持って来るあんたも悪いか」
「そこは俺のせいなのか? っつーか姉貴は、こんな時にでも酒を飲むのかよ」
「バーカ。私はね、学習し成長する生き物なの」
缶ビールを何故だか俺に向けてきた。俺は飲まないぞ、と言おうとして、あることに気付いて思わず唸る。
「うわー、ノンアルコールかよ!? 反省しているのか反省していないのか、また微妙なラインだな……」
学習しているのは確かなようだから、なまじ非難できない。
いつだって姉貴はずるい、俺の思考の一歩も二歩も先を行って、知らぬ間に対応してくるのだから。
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