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「あんたは親のこと忘れたの? 親が今この場に居たとして、何の感情も抱かずに平然として居られる?」
居られない、居られる訳がない。親と同じ空気を吸う、考えただけで虫唾が走る。
「あんたには意外に思われるかも知れないけどね、私は平気で居られる」
「……どうして姉貴は平気で居られるんだよ。あんなことした奴らが側に居るだけで、普通は気分が悪くなるだろ!」
これではまるで、親にコンプレックスを抱いているのは俺の方じゃないか。でも姉貴は確かに言った、“親を見返してやりたい”と。見返したいような奴が側に居たら、何の感慨もなくいられる訳がない。
「親のことは、ある事を除いてはあんたの言う通り、下らないと思うわ。忘れた方がいい、覚えておく必要がそもそもない、人生においての路傍の石ころみたいなものね。だから側に居たって、今更なんとも思わない」
「じゃー、そのある事って、なんなんだよ」
「…………」
姉は無言で俺を見据えた。その力強い視線が“ある事”の全容を物語っている。
まさか、
「俺、なのか?」
「ま、今のはちょっと言い過ぎで、私も全くなんとも思わないわけじゃないでしょーね、実際。私のためにも、あんたのためにも、親との因果を私は断ち切りたい」
「俺が大学に行けば断ち切れるのか?」
「分からないけど、少なくても自信は付くでしょ。あんたが大学を卒業してどっかに就職を決めて、適当に自立してくれれば、私の人生はそれでいい気がする」
「なんだよそれ、荷が重ぇーよ……。姉貴の人生はそれでいいのかよ、本当に?」
「とりあえずはね、それで一区切り付ける。後は適当に良い男見つけて、ちゃっちゃと結婚して、人生ハードモードからイージーモードに切換えて満喫するから」
んな“ちょっと待ってて、そこでタクシー拾って来るから”みたいな軽いノリで言われてもな……。
“良い男見つけて”の件(くだり)は、面倒だから突っ込まないでおこう。
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