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俺が話すべき事柄が他にないか考えていると、姉貴はそれを会議終了故(ゆえ)の間だと思ったのか、欠伸一つ掻いて部屋に戻ってしまった。
「今日全てを話す必要もない、か」
俺も部屋に戻って、ベッドに入って頭を冷やす。
昨日は姉貴と大喧嘩して、あっさり仲直りして、結局俺が大学に行く方向で話が終わっている。
まだ俺は納得していないから、明日また改めて抗議することになるだろう。
「だけど、姉貴があそこまで俺のことを思ってくれていたなんてな」
姉貴の言う通り俺がガキ。けど俺からしたら、姉貴が年不相応に大人びているだけのようにも思う。
ーー正直、かなり悔しい。
これほど姉貴と俺の関係が一方的なものだったなんて……。
たかが歳が二つ離れているだけで、俺も姉貴も中身は大差ないとか勝手に思ってた。
片や社会に揉まれるだけで、これほど人間性に差がつくものなのか。
怖い世界ではあるけど、俺もいつか姉貴みたいに考えられるようになりたい。そしていつか、姉貴をあっと言わせてみたい。
そうなれた自分が今から楽しみだ。
ーーいつか絶対に越えてやる!
携帯がバイブした。メールが届いたようだ。
「もう十二時だぞ……。誰だこんな時間に」
片桐先輩からだった。
件名:遅くにごめんなさい。
『昼間は奇遇だったね。
ちゃんと相談に乗れたか不安だったけど、うん、良かった!
また明日バイトでお姉さんの話を聞かせてください。おやすみ!』
「先輩の中ではまだ奇遇扱いなんですね。……おーやーすーみー、なさいっと」
返信して携帯を閉じる。
十中八九、姉貴と先輩は現在進行形でメールのやり取りをしているのだろう。しかも俺の話題で。
するのは勝手だけど、そうと分かるようなメールをしないでください、先輩。姉貴が俺のことを考えてるとか、考えただけで気恥ずかしいから!
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