理不尽な姉

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「先輩は姉貴の性格をどう思いますか?」 「ポジティブで明るくて素直で頭が良くて、一緒にいると楽しい! かなー」  ポジティブで明るくてす、素直だって? 俺は姉貴の性格を訊いたはずだが……。  いきなり思わぬ落とし穴を見つけてしまった。どうも俺と先輩の間には、認識の齟齬があるらしい。 「逆に訊くけど、お姉さんのことどう思ってるの?」 「俺ですか? 俺は……」  頭が良くて、酒好きで、我が強くて、努力家で、実は寂しがりやな面があって、……俺のことをそれなりに分ってくれている。と、思ってた。ついこの間まではそう思ってた。  昨晩の一件で、姉貴のことが分らなくなった。自分のことも分らなくなった。  だからこうして恥を忍んで、先輩に相談しているわけだ。初めから分かっていれば苦労はないよ。 「姉貴のことはともかく、自分のことなら少しだけ分ります。俺は自分で思っていたより良い人間じゃなかった。というか、最低な人間です」  俺たち姉弟の心を踏みにじってきた両親にこそ相応しいと思っていた“最低”という言葉、まさか自分自身に浴びせる日が来るなんて。 「どうして最低だと思うの? ……暴力を振るったから?」 「俺はあいつの気持ちを踏みにじったかも知れない。あいつのこと心の何処かでは勝手な奴だとか思ってて、でも実際は俺の方が何倍も……」  って、あれ? なんで片桐先輩が暴力のことを知ってるんだ? 具体的な内容はまだ話してないのに。
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