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にしても先輩も人が悪い、全部知っていたのに、何も知らない振りをして俺の相談に乗るだなんて。
なんだか無性に、先輩に悪戯をしたくなってきたぞ。
「先輩は良く図書館には来るんですか?」
「どーだろう。……一年に一回くらいかな」
「一年に一回、ですか……。なら今日俺たちが図書館の、それもこんな隅っこの方で出会うなんて、凄い奇遇ですよね」
「そ、そーだよね!?」
わざと含みを持たせた俺の言葉に、先輩は慌てふためいた。
「……図書館の、それもこーーーっんな隅っこの方で出会うなんて、本当に奇遇だよねー」
バイト先ではお姉さんキャラの片桐先輩が、何時にもなくうろたえている。
なにこれ、楽しい。
俺は先輩が中々白状しないから、「奇遇過ぎますよね」と追い打ちをかけたら、「世の中には不思議なことが沢山あるんだね~」としらばっくれて、隠れるようにして持っていた本で顔を覆ってしまった。
「そう、ですね……。でも、どうして俺が図書館の隅に来るって分ったんですか?」
「な、なんのこと? さっきから話がよく分らないよ?」
先輩はあくまでも白を切るつもりでいるらしい。
直接関係のない姉弟喧嘩の仲裁をしてくれている先輩を、あんまり困らせてイジメたら可愛そうに思えてきた。
今回のことは“奇遇だった”ということで、今は納得しおくか……。
「次に会ったら、面と向かって話してみようと思います」
「きっとお姉さんも、また前みたく仲良しになりたいと思っているよ」
「姉貴がそう言ったんですか?」
「さー、どうだろうね!」
先輩の顔は――本に隠れていて窺(うかが)い知れなかったけれど、楽しそうに弾ませた声は「うん、よく分ったね!」と、言っているようにも聞こえた。
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