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宍戸の眉間に大きめのシワが刻まれる。
静かな怒りの炎ではない。
あからさまに激怒している。
「ははは…やっぱり勇者様は言うことが違うな。こんなものが僕の運命だとでも言うのか?」
「そうじゃないのか?」
「ふざけるなよ」
「ふざけてねえよ。考えてもみろ」
話を聞く限り、宍戸はろくな目にあっていない。
喚んだ奴が悪かったとしか言いようがないだろう。
幼少の時分から道具のように扱われては、気の毒としか言いようがない。
少なくとも俺は俺の意思で世界を救ってやりたいと思った。それに仲間にも恵まれた。
引き換え宍戸はさぞ苦しい思いを味わい、地獄のような仕打ちを受けたのかもしれない。そのせいで、人格も色々とひん曲がったのかもしれない。
あいつがにこやかに過ごしていた青春の日々は、その実耐え難い毎日だったのだろう。
そこまで行くと、しょうがないという気持ちが湧かなくもない。
「な?悪いのは運だろ」
「違う…!」
宍戸は歯を食いしばり、力強く床を打った。
振り下ろした右手からは、薄く血が滲んでいた。
「こんなものは俺の運命じゃない…!」
「それも含めて人生なんだろ」
「身も蓋も無い事を言うな…!」
確かにそうだな。
身も蓋もないわこれは。
「だが、そんなものだろう。
どうしようもない事だってある」
宍戸が今に至る過程なんかは、まさにそれなんじゃないだろうか。俺だって全部上手くやれた訳じゃない。
大事なのはやはり環境だと思い知らされる気分だ。
「受け入れろというのか?あんなものを」
「…何度も言うが」
指先を首輪の中央に当てる。
「んなもん俺は知らん。お前の事情を勝手に聞かされても困る。どうするかは、お前が決めればいい」
「俺みたいな男は、同情する価値も無いってのか?」
「というよりお前に興味が無い」
むしろ何でこいつは俺を目の敵にしてるんだ?
間接的にも迷惑を掛けていないのに、さっき話した程度の類似点から俺をこうまで憎めるものなのか?
正直分からない。
これが本物の逆恨みというヤツなのだろう。
こんな形で人に恨まれるなんて、それこそ理不尽な話だ。
「他人事なんだな」
「他人事だからな」
俺一ミリも関係無いし。
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