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妖魔はそれを境に体が外側から崩壊し、夜の空へと溶けて行った。
「…よし、行くか」
「ま、まだ話したいことあるみたいだったけど…」
「いいよ聞かなくて。それより急ごう。手遅れになる」
そう言い残すや否や、踵を返して山を登ろうとする面の男。最初の一歩を踏み出そうとした時、不意に後ろから服の端を引っ張られた。
何だと思って振り向いてみると、ティアが神妙な顔でシャツを掴んでいる。
「え、ちょ、なに?伸びちゃうんだけど」
「名前…教えて…。お願い…」
命を助けてもらった者の名前も知らないでは末代まで恥が残ってしまう。何よりティア本人が感謝の意を示したいのだ。ケジメはつけなければならない。
「…まあ、全部終わったらな」
男は声のトーンを落として言い放ち、山の頂上を見て指を鳴らす。
その時、ヒラリと一枚のボロボロの紙が夜風になびいて宙を舞った。面の男は気付かなかったが、それが妖魔の死体から出て来たのをティアは見逃さなかった。
そして、それはティアには見覚えがあるものだった。
「何だこれ…?」
紙を手に取り、面の男がじっと見つめる。
「式だ…」
「…式?」
首を傾げる面の男に、ティアは大雑把にまとめて説明した。
「簡単に言うと、使役したい対象に貼り付けて遠隔で操作する魔具の一種」
「…どういうことだ?」
ティアは平坦な声で答える。
その声が僅かに震えていることに太郎が気づく事もなく。
「つまり、この妖魔は誰かに操られてたってこと」
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