絶望の理由

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◇ 宍戸達は、いつまでも攻勢に転じ切れずにいた。 理由は二つある。 一つは単純に蜥蜴の妖魔が強すぎること。 そしてもう一つは、土村叶が先ほど目の前で凄惨な死を迎えたことだ。 それは彼等にとって損失などという枠組みで測れるものではない。長年師事してきた担任が、あっさりと敵の餌食になったのだ。 土村叶は戦力としては勿論、精神的な支柱としての意味合いも大きかった。 どんな状況下でも恐ろしく冷静で、的確な指示を出してくれる。そして強い。 故に生徒達は彼女に対して絶対の信頼を寄せていた。土村叶がいればなんとかなると、そう高を括っていた。 だが実際はこうだ。 現実は土村叶の死を悼む時間すら与えてくれやしない。 今は識神の召喚獣であるジンを中心に何とか抵抗をしているものの、そう長く保つはずもないだろう。口には出さないが、誰もがそう予見している。消耗が激し過ぎるのだ。 そもそも、その唯一正面から対抗出来るジンでさえ、少しずつその均衡が崩れようとしているのだから。 攻撃をしのいでいる内にもどんどん彼等の体力は減ってゆく。逆に蜥蜴の動きは衰えるどころか徐々に激しさを増していた。 当然、劣勢に傾く。 「はぁ…はぁ…!」 息も絶え絶えとなった美月が血を滴らせながら山頂の広場を疾駆する。 刀身に纏わせていた嵐は所々ほつれが生じ、既に十分な性能は失われていた。 美月の表情は険しく、余裕など感じられない。今もなお後ろから迫る蜥蜴を目の当たりにして、恐怖する以外どうしろというのか。 不意に背後からのプレッシャーが消える。美月が後ろを確認する前に、目の前に蜥蜴の妖魔が現れた。 「ちょっと、反則でしょそれ…」 正面に回り込まれた。 もう逃げられない。 速度では敵わない。 だが瞬発力でも劣るというのがどうしても納得いかない。物理的にどうなのだ、それは。 「宇藤さん!」 「美月!」 ティアと識神こづみが魔法を放とうとしているが、タッチの差で間に合わないだろう。 覚悟を決め、柄に力を込める。 鋭い踏み込みから、今まで放ったどの斬撃よりも強力なものを繰り出した。 ガチン、とレイピアと蜥蜴の爪がぶつかる。 「ーーーーッ!?」 重い。 一瞬で競り負けると確信した。こんなのとまともにやり合えば死ぬ。確実に死ぬ。 即座に頭を切り替え、力のベクトルを横に流すように仕向ける。
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