佐藤草介、前科一犯

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そう答えると、猫耳はしてやったり、みたいな顔で笑った。 「いいね。そうこなくっちゃ。あたし、聞き分けが良い人は嫌いじゃナインだ」 俺の返答が自らの思い通りになったのか、心底嬉しそうにニマニマと笑う猫耳。 いや、もう疑うのはやめだ。 大人しく乗ってやるのも一つの手だ。 後は俺に不利益が被らない程度に、要所要所で考えて気張るしかない。 「…で、俺は何をやればいいんだ?」 「その前に自己紹介をしておこうよ。君の名前はーーーああ、言わなくてもいいよ。 確か佐藤草介だったね?」 猫耳はどこからともなく一枚の名刺を取り出す。 差し出された名刺は吾妻さんの物よりも重く、そして黒く塗り固められていた。 薄い暗闇の中目を凝らし、まじまじと確認する。 『世界魔法協会本部所属。 天位魔術師序列六位。 【不死猫】ナイン・バースフィールド』 「天位魔術師…?」 何だったか。 魔術師の資格って事だけは覚えてる。どれくらい凄いんだったか具体的にはちょっと忘れてしまーーーー。 ーーーーいや、ここに来る途中、確かそれについて書かれたでかい石板を見かけたような。 そう、協会には天位六門とか呼ばれてる偉い人が認めた最も優秀な魔術師がいた筈だ。 その中に不死猫とかいう奴か紛れ込んでた気がーーーーー。 「え?」 いや、え? こいつが? この猫耳フード被ってるちんちくりんが? だってお前、これは幾ら何でも。 こんなチビ界の首領みたいな奴が。 いやあんた、確かに猫っぽい格好してるけども。 「勇者くん。あたしと戦いましょう」 首筋に悪寒が走る。 すぐさま見上げると、猫耳が不気味な笑顔で俺をじっと見つめていた。 鼠を前にした猫は、もしかするとこんな顔になるのだろうか。 俺にはよく分からない。 よく分からないがただ漠然と、俺は危険そうな奴に目を付けられたと、そう感じた。 「勝ったら出してあ・げ・る」 妙な格好をしたよく笑うこの少女は、世界に六人しかいない魔法使いの一人だったのだ。
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