相対性ナイン

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長い廊下だった。 廊下というよりは最早トンネル。 桜並木のように一線に設置された照明達が、申し訳程度の光を照らしている。 そんな薄暗く無機質な屋内を、俺は白髪の少女と歩いていた。 「まだ着かないのか?」 「もうちょっとだから辛抱してね」 少女ーーーナイン・バースフィールドはそう返して、カツンカツンとブーツの底を鳴らしながら軽快な足取りで進んでゆく。 しばらくして俺達が到着したのは、大きな行き止まりだった。 「おいナイン…」 「まあまあ、勇者くん。少し見てなよ」 訝しむ俺を諌めて、ナインはおもむろに壁をまさぐり始める。 何度かペタペタと壁を探っていると、唐突に一部がスイッチのように大きく陥没。そしてそこを中心に白色の魔術式が展開し、壁中にその紋様が走った。 「凄いでしょ?あたし専用の転移魔法陣なんだよ」 ナインは術式に背を向け、俺に見せびらかすように大きく手を広げる。 まるで友人に玩具を自慢する子供だ。というか、本質はあまり変わりがないような気がする。 外見と精神年齢は一致するということか。それともこいつがわざと外見に精神年齢を合わせているのか。 まあ、その辺りはさして重要ではない。それよりも問題は別の場所にある。 「これ、どこに繋がってるんだ?」 素朴な疑問を口にすると、ナインは可愛らしく「んー?」と首を傾げ、やがて思いついたように、 「…学校?」 おい、なんで疑問系なんだよ。 ◇ 時は30分程遡り、件の牢屋。 世界に六人しかいない天位魔術師のナイン・バースフィールドが出した条件は、俺には到底理解できないものであった、 戦いましょう。 戦い。 つまりは、俺と戦闘をしましょうという事だ。 「え…何で…?」 意味が分からん。 何故理由もなく争わなければならないのか。てっきり汚れ仕事でもやらされるもんだと思っていた。 もしかすると、このナインというやつは戦闘に楽しさを見出している人間なのかもしれない。 感心は出来ないが、そういうやつはたまにいる。そう、いるんだよマジで。 強者を倒して強さの誇示をやりたがる奴が。人血をシャワーみたいに浴びて最高、とかいう阿呆が。 俺は興味本位で戦闘を楽しむと言うことを理解出来ない。 なので勿論わざわざ楽しむではなく愉しむとかも言わないし、戦いを出来るだけ長く愉しむ為に眼帯に霊圧食わせたりもしない。 殴られたら痛いからな。
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