忍び寄る猫の手

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あれは完全にアウトだった。 こづみの親御さんに見つかったら絶対に殺されていたに違いない。 「…結構痛かったんですからね、あれ」 「いや、すまん…。割とマジで反省してる」 謝罪する俺に、こづみは優しく微笑んだ。 「ふふ、嘘です。草くんは手加減が上手だったから、痛くありませんでしたよ?」 「そ、そうか?それなら良かった…」 「はい」 にっこりと、曇りの無い笑顔で微笑みこづみ。 ………ん? 「なあ…お前」 「あ…あの泥玉」 また唐突に、俺の声を遮ってこづみは棚に置いてある泥玉に指を差し向けた。 「懐かしいですね。あの時のままです」 「……あ、ああ、一番良い出来だったからな。出来るだけ大事に保存してる」 あの時と言うのは、こづみと俺が出会った日の事である。 その日からもう約十年。 お互い魔術なんて訳の分からないもんを使っているなんて、思ってもみなかった。人生何があるか分からないものだ。 というか俺の人生は幾らなんでも波乱万丈過ぎる気がする。 「…あの時、草くんが一緒に遊んでくれなかったら、私はいつまでも陰気な性格のままだっと思います…。きっと、友達も出来ませんでした…」 「そうか?お前はなんだかんだで、人付き合い上手いし、俺なんかいなくても大丈夫だろ」 「そんな事ありません。草くんには本当に感謝しています」 「…………」 一見なんの変哲も無い思い出話なんだろうけど、何だろうこの違和感。何か調子が狂う。 「草くん」 「なんだ?」 「今度、二人で遊びに行きませんか?」 …あ? 「何だよいきなり。藪から棒に」 「少し遠くまで行って…買い物でも…」 「なあこづみ」 話の流れをぶった切るように、俺はおもむろに切り出した。 「お前、今日何しに来たんだ?」 出来るだけ何気無く聞いてみた。 世間話でも始めるかのように。 実際俺はそのつもりだったし、こづみも今日は気軽に俺の家に遊びに来たと思っていた。が、そもそもこんな時間にこいつが来る訳がない。 しかし、俺が質問した途端、当の本人であるこづみが何故か押し黙り始めたのだ。 やはりおかしい。 今日の俺は前回と違い、変な事は言っていない。 変な事もやっていない。 彼女の不思議な反応を妙に思い、表情を覗き込んでみると、えらく暗い顔をしていた。 「お前、何かあったろ」
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