一級を目指して

5/12

/1642ページ
それより俺だ。 何で俺はこんなに沈んでいるんだ。 こづみはまだ若い。これからいくらでも軌道修正可能だ。 イタリアに行った後、じっくりと親御さんと話し合って行けば、その妖育師とやらにもなれる筈。 とか何とか、そういう差し当たりの無い台詞で後押ししてやるのが、この場合はベストの筈だ。 よく分からんが心臓が痛い。 何だこの感覚は。 行って欲しくないならそうはっきりと言えばいいだろう。 だが俺がここで無責任な言葉で悩ませてしまっては重荷にしかならない。 「……ううむ」 重過ぎる。 どう考えても俺一人でどうにか出来る問題では無い。 だが、このままこづみが海外へ行ってしまっても何だか後味が悪い。 いや、それは俺の主観だ。 こづみがそうとは限らない。 やはりここは出発の日まで出来る限り多くの思い出を作るように過ごすしか無いのか? 本当に手立て無しなのか? あのこづみが直接的な物言いでは無いにしろ、この俺を頼っているのだ。 あの完全無欠のこづみがーーーだ。 この時点で俺程度の力で処理出来る問題ではない事は明白だ。 だがそれでも、こいつを黙って行かせる訳にはいかない。 ならば考えろ。 頭を捻れ。 こづみが抱える問題を全て解決出来るウルトラCを二秒で発案しろ。 ……って。 無理だろそんなん。 正直ナインに頼る以外に解決方法が思いつかない。 でもあいつさっき帰っちまったし。付け加えると俺はあいつの連絡先さえも知らない。 バイトの奴等は恐らく全員知っているだろう。普段ナインから距離をとっていたのが仇になってしまった。 そもそも、あいつ人のお願いとか聞いてくれるタチなのか?頼まれた瞬間に鼻で笑われそうな気がする。 ーーーどうする。 苦悩に苦悩を重ねていたその時、俺の部屋の窓が勢い良く開いた。 「話は聞かせてもらったよ、こづみちゃん」 声の方を見ると、小さな猫耳がフリフリと可愛らしく揺れたていた。そしてその横に吾妻さんもいる。 どうやら屋根に立って盗み聞きしていたらしい。 「厄介ごとみたいだね。でも心配にゃあ、及ばないよ。このナイン・バースフィールドにお任せあーーー」 ガツン、と勢い良く窓を閉める。 一人体を乗り出していたナインは見事に直撃。小さな体が圧力により更に縮んだ。 「おご…ッ!!?」 隙間に挟まった猫は低い呻き声をあげ、窓の外へと落ちて行った。
/1642ページ

最初のコメントを投稿しよう!

この作品は本棚「あとで読む」に入っています
本棚「読んでいる」に移動