一級を目指して

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◇ 「アンタら帰ったんじゃなかったのかよ」 再度密度が上がった部屋で、俺は彼女らを問い詰めていた。 説教にも似た雰囲気の中でナインは以前としてそのお茶らけた態度を崩さない。 「勇者くんってさ、意外と苛烈だよね…」 ナインは抑揚の無い声色でそう呟き、笑いながらぴくぴくと小刻みに震え、白肌から冷や汗を垂らした。どうやら相当効いたらしい。 「もしアザが出来たらバイトのみんなに言い触らしちゃお…」 「お前な…」 いつものように話を逸らされると嫌なので、ナインを強く正面から睨みつける。 すると彼女は澄まし顔でふいっと目を逸らした。ので、代わりに吾妻さんへと視線を移す。 彼女はびくっと体を震えさせ、取ってつけたような言い訳を始めた。 「い、いや…私は止めたんですよ?私は」 吾妻さんは慌てた様子で両手を顔の前で振るう。あんたもバッチリ盗み聞きしてたと思うんだが、まあ良い。 問題はこいつだ。 「何で盗み聞きなんてしてたんだよ」 「いやぁ…あのまま待機してたら君とこづみちゃんの交尾とか見れるかなと思って」 「ちょっ…」 「…………」 「…………」 ナインの強烈な一言に、吾妻さんが露骨に引き、こづみがその顔を真っ赤に染め上げる。 今のは引いたよ。 お前の一言で取り返しがつかないほどゲスな話になったぞ。どうしてくれんだ。 「ナイン、あのさぁ・・・」 「まあ、落ち着いてよ勇者君。どうせ君、あとであたしに相談するつもりだったんでしょ?手間が省けて良かったじゃん」 ナインのその台詞に、俺は思わず言葉を詰まらせた。 当たり前のように読まれていた。 こづみとの会話には出さなかった筈なんだが。 いや、でもそれとこれとは別問題だろう。盗み聞きはよくない。 「ねー、こづみちゃん。こづみちゃん困ってるんだって?」 ナインは俺からくるりと方向を変え、ニヤニヤしながらこづみへと向かい直った。 「もし良かったら、お姉さんが助けてあげようか?」 「た、助けるって…どうやって…」 戸惑うこづみを前にして、ナインはニヒヒと嫌らしく笑う。 「あたしが、君を一級に昇格させてあげるよ」 「え、えぇ…!?」 ナインの突然の物言いに、こづみは困惑顔で狼狽える。 あまりにも急な話だ。 というより、現実味の無い話だ。 それほど重みの無い、とても軽い言葉だった。 故に、こづみは当たり前のように否定を始めた。
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