一級を目指して

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育てるならもっと安全な方法があるんじゃないのか。そうまでしてその支部に送りたい理由でもあるのだろうか。 実の孫を危険に晒して。 獅子は息子を谷に落とすとは言うが、そこまでスパルタってのはどうなんだ。 しかし、こづみはとんでもなく優秀って聞くし、そういう育て方もありなのか? いや、どのみち俺の立場からじゃ理由なんざ思いつくわけがないか。 「お爺様が妨害してるなら…私が何しても本当に無駄じゃ…」 「いや、無駄じゃないでしょ」 ナインはきっぱりとかぶりを振って、こづみと正面から向き直る。台詞を遮った声は妙に力強く、ゆっくりとこづみの混乱を溶かした。 「君がやって来た事自体は、ちゃんと協会に記録として残ってる筈なんだ。それを幻斎が横槍入れて邪魔してるだけだと思う」 「ですね。彼女なら、学生の内に一級に上がれる事も不可能ではなかった。なんらかの妨害があった可能性は十分あると思います」 ナインの眈々とした推測に、吾妻さんが肯定の言葉を付け足す。 「本来なら出世は早い方が幻斎も喜ぶ筈。あいつはそういう奴だからさ。多分、イタリア支部に所属されたら、君はすぐにでも一級になると思うよ」 「…結局、お前は何をするつもりなんだよ」 このままでは話が死ぬ程長引きそうなので、率直にナインを問い詰める。 そして帰ってきた答えは、 「うん、ていうかさ、こづみちゃんも猫組に入れば?」 「ぇ、えぇ…!?」 「あたしの派閥で活躍すれば一級にも成り易いし、卒業後の進路としては幻斎も納得するんじゃないの?ほら、なんだかんだでウチ協会の中では権力強いし。こづみちゃんは籍だけ置いて日本にいてもいいから」 あっけらかんと言い放つナインに、俺は堪らず眉を顰めた。こづみもまた、唖然とした表情で目を見開いている。 「それ…手助けって言うのか?」 ある意味、俺の時より破格な条件だ。というか一見だとナインへのメリットが見当たらない。 こづみにはそれ程の価値がある。そういう見解ならば、それで話はお終いなのだろうけど。 「わ、私なんかがナインさんのチームに入るなんて…。それも一方的に利用する形で…」 「いやいや、君みたいな人材だったら大歓迎だよ。加えて識神と繋がり出来るなんて最高だし。幻斎のクソヤロー置いといて、君の両親は意外と話が分かる人だからさ」
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