一級を目指して

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どうも話が終わった後のこづみは来る前よりも明るく見える。 それこそ見違えるほどに。 俺はあまり実感が湧かないが、こづみからすれば世界的大スターが来日したのと同じ感覚なのだろう。 しかもそのチームの一員に迎えられたのだ。浮き足立つのも無理はない。 加えて目先の問題も解決しそうで、内心じゃ天にも昇る思いだろう。やったねこづみちゃん。 「今日、草くんの家に行って本当に良かったです。これで夢を断念しないで済むかもしれません」 少し前までは死んだ魚みたいな顔をしていたこづみだが、今は満面の笑みでニコニコと笑っている。 結構レアな表情だ。 笑顔をレアっていうのも失礼な話だが。 「…どうかしましたか?」 先ほどから俺の反応が鈍い事を不思議に思ったのか、こづみが下から俺の顔を覗き込む。身長差もあって、いわゆる上目遣いの形になった。 「いや、なんか安心してな」 「何がですか?」 首を傾げるこづみ。 そりゃあお前、決まってるだろう。 「お前がいなくならなくて良かったと思ってたんだよ」 今日の告白は余りにも急過ぎた。はっきり言って今じゃホッとしている。真意のほどはちょっとよく分からないが、ナインには明日礼を言っておこう。 「……………」 こづみは一瞬だけ目を見開いて真顔になり、すぐさま後ろへと振り返った。それがまた奇妙で、油を差し忘れたロボットのような動きだった。 街灯に照らされた彼女の後ろ姿は、どこか耳が赤いようにも見える。 「今日はありがとうございました。また後日に」 「あ、おいまだ家に着いてな…」 「ではっ…!」 結局最後まで俺と顔を合わせなかったこづみは、凄まじいダッシュて瞬く間に闇に溶けてしまった。 速ええ。 なんだあいつ。 こづみの大手を振った全力の走り。 異世界にずっといた俺からすれば、これも意外とレアな光景だったりする。
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