崖の上の草介

2/31
107418人が本棚に入れています
本棚を移動
/1641ページ
その日は早めに起床し、日中にちょくちょく身体を解した。 ナインからの任務というので、恐らくは戦いになるのだろう。 戦いになるという事は、筋肉痛の恐れがあるという事だ。 山頂で不良教師をボコった時以来、俺は朝のジョギングや筋トレをライフワークにしている。お陰で少しばかり身体の具合が小慣れてきた。 が、また数日動けなくなるほど疲労するのは御免なのでせめて準備は念入りにしておくのが吉だろう。 終わった後に治癒魔法をかけて貰ってもいいのだが、あれは頻用すると身体に悪い。魔法は万能ではないのだ。 仕事が終わると同時に家へと帰らず約束の場所へと直行した。 様々な人々が帰宅する中、俺だけが逆走して駅前を目指す。帰宅ラッシュと呼ぶには些か少なめの人混みに逆らいながら、俺はプラットホームへと辿り着いた。 目当ての電車に乗り込む前に缶コーヒー一つを購入。乗り換え無しで20分程電車に揺られながら、車内で一日の疲労を癒しておく。 今日の目的地は俺が住んでいた田舎よりも更に田舎だ。故にそこそこ近場ではあったものの、俺はこの町を訪れた事がなかった。 駅は無人ではなかったが、かと言って駅員以外に人がいる事もなかった。 駅周辺には、裏側に小さな商店街と、道路を跨いだ正面にこじんまりとしたスーパーが一つだけ。 もう少し見渡せば何かあるかもしれないが、その前に駅前の広場にクラクションが鳴り響いた。 振り返ってみると、パーキングエリアにグレーの車がポツンと駐車していた。恐らくは迎えの車だろう。こづみが見当たらないところを見るにもう車の中に入っているのか。 近づいてみると運転席が俺から見て右側にある事に気付く。 外車なのか?と思って細部まで見渡してみると、丸いヘッドランプとボンネット上にフライングBの意匠が見えた。 え、何だこれベントレーか。 畏れ多いから今度からママチャリで送迎しろ。
/1641ページ

最初のコメントを投稿しよう!