107406人が本棚に入れています
本棚を移動
/1641ページ
その返しに吾妻はある疑問を抱いていたものの、それ以上の説明を求める気にはならなかった。
実のところ吾妻京子は、なぜ彼女が彼に妙な執着を見せているのか、その真意が理解できていない。
善行だと言い切ればそれで終わりだが、それ以上の何かがある気がしてならない。
一体彼女が何を考えているのか。
それは、自分が推し量るだけ無駄な事なのだろう。
そう得心した吾妻は、本題へと話を切り替えた。
「…先日からの調査ですが、先生の捜索は今のところ進捗はありません」
「…まあ、あの人はそう簡単に見つかるもんじゃないでしょ。極東支部のお陰で滞在はいくらでも出来るから、気長にやろうよ」
依然としてナインは書類から目を離そうとしない。
少し珍しい光景だった。
デスクワークがとことん苦手な彼女は、基本的にその手の仕事を自分やヴィクトールに任せるきらいがある。
そんな彼女が率先して書類なんてものを確認しているのだ。
彼女と旧知の仲なら、どうしても勘繰ってしまう出来事だった。
「…あの、ナイン?先ほどから何を読んでいるのですか?」
「協会からの任務」
「猫組にですか?」
「いや、あたしに直接」
予想外の事実に、吾妻京子は怪訝そうに眉をひそめた。
それはつまり、天位魔術師が動くほどの大事ということだからだ。
「今貴女は佐藤君の監視中でしょう?当分ナインが動くほどの仕事は来ないはずです。
一体どこの支部から来たのですか?」
「元老院から」
「は…?」
たまらず言葉を詰まらせる。
元老院。
魔法協会における最高機関。
十余名で構成されるその団体は、協会のあらゆる決定権を握っている。彼女を六門へと正式に名を連ねさせたのも、何を隠そう元老院の老獪共であった。
その彼等から直々に辞令が降りた。協会の受付から来る通常の任務とは訳が違うのは明白だった。
「内容は…?」
「うん、なんかさ」
ナインはごくごく平坦な口調で答えた。
「鬼が出たっぽい」
最初のコメントを投稿しよう!