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この世界の何処かに、不思議な塔が存在する。
フランス某所でそんな御伽噺が囁かれ始めて、もう何百年の時が経ったのだろう。
都市伝説にしてはあまりにも眉唾なそれを、誰が広めたのか、知る者はもういない。
だが、その塔は確かに存在した。
その塔は高かった。
山よりも雲よりも。
天さえも衝いてしまいそうな巨塔。
きっとこの塔の天辺ならば、世界の全てを見渡せる。そんな意味を込めて、設計者はそれを【見聞の塔】と名付けた。
遥か昔、初代天位魔術師の手によって建てられたそれは、今迄決して傾くことなく、折れることなく、魔導の中心としてゆっくりと歴史を刻み続けてきた。
魔術界の総本山。
世界魔法協会の本部である。
見聞の塔の最上層にある大会議室。
通称繚乱の間。
普段は協会の歳を重ねた重鎮が集められるその大部屋だが、此度の顔ぶれは少しばかり訳が違った。
猫組を始めとする高位コミュニティの面々。
アフェクション、セフィロト、
不重脳無霊戯怨。
そして大星群。
特級上位メンバーから六門まで、魔術界のトップ達が集結していた。
いずれも世界に名を轟かせる高位の魔術師ばかりだ。
その中の一席に居座る白髪の少女。
猫組のリーダーことナイン・バースフィールドは、天井を仰ぎながらつまらなそうに一つ欠伸を漏らした。
(眠い……)
小梅町から成田まで電車で乗り継ぎ合わせて二時間半。
パリまで飛行機で約十二時間半。
そこからボルドーまで更に一時間半。
本部への転移術式が存在するフランス支部まで車できっかり4時間。
計20時間30分。
ここに来て長旅の揺り返しが襲ってきた。
時差ボケもあるが単純に疲弊していた。やはりギリギリではなく一日程余裕を持って来るべきだった。
そうすれば体を休められたのものを。
そもそも何故本部がフランスなのか。
真下に霊脈の根があるのも無関係ではないだろうが、建てた張本人である【博王】は遥か昔に死んでいるのでもう確かめようがない。
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