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【桃山田家、本館司令室】
暴王の首輪。
その言葉を口にした劉孤鈴の顔は、平静とは酷く掛け離れていた。
桃太郎の表情も何処か優れない。
会話の内容を明瞭化する為に、草介は取り敢えずその辺りの事情を聞き出すことにした。
「なんだそれ。凄いのか?」
「…ああ。ロームグリスが人間を使役する時に決まって刻む紋呪だ。人間というか、この場合は奴隷だな。己で設定した条件をもとに、対象の精神に制限をかける。高位神獣でも抗えないような、超強力な奴を」
つまり、桃太郎はこれのせいで話せる情報に制限が掛かっている。曖昧ながらも、草介はそう判断を下した。
「外せないのか?」
「不可能だ。禁呪中の禁呪だぞ。ロームグリスの家系は一代で途絶えている。解除方法なんて、今では誰も知らない」
「そうか。それは困ったな」
「困ったどころの騒ぎじゃない…。桃太郎君、これをやられたのはいつだ?犯人に心当たりは?」
「それは話せない」
「…そうか。そもそも、分かってても話せないか…」
コリンは一人でに問答を完結させて、静かに顔を俯かせた。
「やっぱり、劉さんでも無理なの?」
「無理だ。少なくとも、直ぐには 不可能だ。【境界(ロギンス)】か【栗人形(シャリア)】がいれば何とかなるかもしれないが、シャリアは今八岐大蛇で手一杯だし、ロギンスに至ってはどこにいるかすら分からん」
コリンは美貌を渋面に染め上げ、悔しそうに口元を食いしばる。
やはり駄目か。
誤認封印を見破った所までは良かったが、肝心の首輪が解けなければどうしようもない。
アテが外れた桃太郎は、コリン同様顔を曇らせる。そんな時、桃太郎がふと隣を見てみると、草介が何やらえらく真剣な表情をしていた。
「佐藤さん、どうしたの?」
「桃太郎、ちょっと術式を見せてくれないか?」
「え?ああ、うん。別にいいけど。どうかしたの?」
「はいどーん」
「ひぎゃあッ!?」
バチィン、と唐突に火花が弾ける。熟考していたコリンは何事かと忽ち顔を跳ね上げ、桃太郎に視線を合わせた。
「な、何をやったんだ佐藤君っ!?」
「術式を解いた」
「何だと…!?いきなり、何言って…」
そこでコリンは口を止め、床でうずくまる桃太郎の右肩を見やる。
無い。本当に無い。
かつて解除不能とまで称されていた暴王の首輪が、綺麗さっぱり無くなっている。
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