108028人が本棚に入れています
本棚を移動
/1641ページ
そんな態度から何かを察したのか、宍戸はそれ以上言及しようとせず、直ぐに前を向いて歩き始めた。
瞬間ーーー。
目の前の空間から、突如として黒い何かが現れた。
それは猪の異形。
鋼を纏ったような暗褐色の肉体は 筋骨隆々で、下顎から伸びる犬歯は通常の物より鋭く、そして大きい。
またもや集中を乱していたこづみは、それが妖魔だと気付くまでに丸まる3秒掛かった。
硬直の最中、猪の妖魔の凶星のような瞳と視線がかち合う。
「…………ぁ」
何かを言う暇もなく、猪の妖魔はこづみ目掛けて驀進する。
地面を荒々しく踏み砕き、風を蹴散らすその姿は正に圧縮された暴力そのものだ。
(っーーー!!)
万全の状態ならいざ知らず、今から物理障壁を展開しても間に合うかどうかは五分五分だ。
かと言って接近戦を不得手としているこづみが素手で対応出来るはずが無く、ましてや回避など望むべくもない。
凝縮された時間の中、腹を括ったこづみは前方に出来る限りのスピードで魔力の壁を作り上げてゆく。
精巧さや強度などは二の次だ。とにかく今はこの妖魔との間にクッションを挟まなければいけない。
徐々に広がってゆく藍色の薄壁に猪の巨躯が衝突せんとした瞬間、
青色の閃光が妖魔の胴を射抜いた。
最初のコメントを投稿しよう!