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「きゃあっ!?」
眼前で雷鳴が轟く。
稲妻の槍を食らった猪はそのまま真横に吹っ飛び、地面を這う様にバウンドする。
そこから起き上がる事もなく、断末魔をあげる事もなく、身体中が灰色にヒビ割れ、秒を跨がずに砂の様に霧散してしまった。
こづみは障壁を出したまま崩れゆく妖魔を見ながら放心した。未だ鳴り止まない心臓の鼓動を感じながら、一旦状況を整理する。
一体誰が、という疑問が一瞬脳裏に浮かんだが、直ぐにかき消えた。元より【これ】を使えるのは一人しかいないのだから。
「大丈夫かい?こづみ?」
いつの間にかこづみの側で宍戸良弥が飄々と佇んでいる事に気づく。そこには一切の焦りも無く、いつもの爽やかな笑顔を浮かべていた。
「…す、すみません」
「いいさ、仕方ないよ。それより僕のこづみに怪我が無くて良かった」
「は、はい…」
突然そんな事を言われて思わず歯切れが悪くなる。
真顔でそんなこと言える人間は多分そう居ないだろう。宍戸のこういう態度は毎度のことだが、こづみはいつになっても慣れなかった。
「…流石だな宍戸。見事だ」
口元の煙草をふかしながら、土村叶が無表情で宍戸を賞賛する。彼女も迎撃の準備をしていたのか、その手には錆色の長槍が握られていた。
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