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「まあ…この辺りの妖魔は僕にとってはただの的でしかありません。武器を使うまでもない」
宍戸は表情を崩さずにそう言って、自賛する様に帯電した右手を見つめる。
灰燼へと成り果てた妖魔を一瞥して、こづみは息を呑んだ。
今の妖魔、決して弱い部類ではなかった。少なくとも学生が単独で相手に出来るレベルではなかった筈だ。
それを一撃ーーーたった一撃で沈めたのだ。こづみは攻撃魔法が不得手というわけでは無いが、とても自分にはそんな真似は出来ない。
学生になって彼の魔法はもう何度も見るが、未だにその桁外れの威力には戦慄させられる。
一方、土村叶は面倒くさそうに嘆息し、空いた左手で髪をくしゃりと撫でた。
「…くれぐれも油断はするなよ。お前もあの時の高槻を見ただろう?どこに高位の妖魔が紛れ込んでいるか分からん」
「ああ…例の猫又ですか?
確かに彼があそこまでボロボロになるのは初めて見ましたけど、あれも僕の敵じゃない」
「だといいんだけどな…」
土村叶はそれ以上何も言わなかった。長槍を消し、静かに踵を返しそのまま次の目的地へと向かって行く。
土村叶と宍戸との間に、ピリピリとヒリつくような緊張が走る。そんな雰囲気の悪さに、こづみは少し居心地が悪くなってしまった。
宍戸はこづみが内に抱える不安を悟ったような顔で、優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ。こづみは絶対、僕が守るから」
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