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「ねぇ、そういえばカオルくんさ」
「ん?」
カオルくんがL字型のソファの長い方に、私が短い方に座ってそれぞれ読書を始める。
しかし、本を開く前に急にあることを思い出してカオルくんの名前を呼んだ。
「夏休みが始まってからはレイさんと会ってないの?」
「会ってないよ。レイは休みになってすぐにアメリカに遊びに行ったし。連絡も全く無い」
「ふーん。そうなんだ」
「何で?」
「何でもない。ちょっと気になっただけだから」
そう言った私に、カオルくんは「そっか」とそれだけ返事をした。
特に気にした様子もない。
今はせっかく2人きりなのだ。レイさんのことを思い出していても仕方ないので、私は小説を開き、この空間を堪能することにした。
コップに入れた麦茶も飲み干し、氷が溶けてカランと音がした事に気が付きふと顔を上げる。
私は3巻目の途中まで読んだ所だ。
読書を初めて3時間は過ぎている。
カオルくんは私が顔を上げたことにも気が付かずに読書を続けていて、何だか急に「色気がないな」と思って笑ってしまった。
恋人ではない。
けれど、若い男女が親のいない広い家に2人きりだというのに。
「カオルくん」そう呼ぼうとして止める。
話すことも思い浮かばない。
カオルくんを呼んで、こっちを向かせて私は一体、どうしたいのか。
何も思い浮かばない。
私はまた、手に持っていた小説の世界に没頭することにした。
それからどれくらい経っただろうか。
「しの」
と、カオルくんが私を呼ぶ声で私は現実に戻ったのだった。
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