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「あ、大和。違う、そっちじゃない」
「いいんだよ、こっちから回った方がアイテム手に入りやすいんだから」
カオルくんたちが楽しそうにしている後ろで、私は真穂と全く違う話をしていた。
「明日、何の映画見るの??」
「私の好きな俳優が出てるやつ」
「ああ、だいぶ前から見たいって言ってたやつか。予定合って良かったね」
「カオルくんと?」
「うん、デートじゃん。楽しんで来なよ」
「デートじゃないけど」
そう言った私を真穂は笑った。
私がそう言うのが初めから分かっていたようだ。
「まぁ、王子のファンに会わなきゃいいけど」
「それと、カオルくんの博愛主義のせいで映画見れなかったことあるからね」
「王子もね。美乃といるときは、美乃だけの王子様でいればいいのに」
案外、私にはその考えはない。
カオルくんはみんなのモノだからこそ、カオルくんらしいのだ。
カオルくんが王子様ではないのは想像できない。
「私だけの、とか考えたこともないな」
それは呟いたのか、真穂に言ったのか自分でも分からない小さな声で私の口から出た本音。
それから少しして母親が帰宅した。
「ただいまー。……あら、いらっしゃい。ゆっくりしてね」
「ママ、おかえり。今日はアトリエに泊まるのかと思ってた」
「一段落したから帰って来ちゃった。悠ちゃんは?」
「まだ帰って来てないよ」
「そう」
ママが少し寂しそうにする。悠ちゃん、とはパパのことでいつまでも仲がいい私の自慢の両親だ。
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