初恋の雨

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 眠れない――。眠れないよ。雨音に震えて……。私は布団の中で包まって脳をぐちゃぐちゃにした。いや「された」夜の雨、特に深夜の雨は心と脳に響く。夕方から湿気を帯びた空気は、ついに夜の日付が変わりそうな時間にぽつぽつと我慢しきれなくなったらしい。今は午前二時。もう随分土砂降りに近くなっている。  ぽつぽつと始まる音から、過去の記憶をひっくり返された。昔もこんな雨音の中を、傘なんて無くて、濡れながら学校から帰る道を帰ったかな、なんて。あの時も真っ暗な、夕方だったかな。泣いてたのか、泣いていなかったのかは、今も昔も、雨粒に紛れてわからなくなっている。  寒かった。そういえば寒かったな。濡れて顔に引っ付いた髪を思い出した。髪からもしとしと雫が垂れて、頬を伝って地面に静かに落ちた。  うん、そうだ。誰もね、私に傘を貸してくれる人なんていなかったんだよ。別に今日いきなり雨が降った訳じゃないけど、今日は雨って知ってたけど。確か――そうそう、置き傘を知らない誰かに盗まれてたんだっけ。  委員会で遅くなっちゃってさ。図書委員会は嫌いじゃなかったけど、ちょっと……ちょっとだけね、何かが、苦しかったんだ。それでもクラスに居るよりはマシだった。それでも楽しかった。ちょっとだけ、ちょっとだけ、所謂青春っぽい「好きな人」に届かないで、只の委員長と副委員長って関係で止まって、「気が合う仲の良い友達」ってだけで終わった、だけで。うん、思い出したけど、楽しかった。  こんな感じでどんどん雨粒の落下スピードと量に比例して、あの時の記憶が溢れて来るんだもん。眠れないどころじゃないよ。もう……苦しくて泣きたい位で。それでも涙は雨に吸収されてるのか、代わりに雨が降っているのか、私は厚い羽毛布団の中に潜った。窓を開けるまでもなく、きっと、糸の様な雨がざあざあ降っているのだろう。音だけで脳内に再生された。ええと、それでなんだっけな。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!