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そうそう、もうね、楽しい過去も、「苦く苦しくも甘酸っぱい思い出」も「好きだったあの人」ももう私には、今の私には無いの。どこで壊れたんだろうね。いや、どこで「壊した」んだろうね。それを言えば「好きだった」じゃなくて「好きな」かな。あの日の雨音で思い出したけど、まだ私はあの委員長が好きなんだな。
あの日、委員会で遅くなった私は、傘を盗まれて――「一緒に入る?」って言われたんだよね。そしたら、それでも、そのとき、クラスの人が来てさ、当たり前みたいに、女子高生らしく「わ~相合傘だ」って噂してくんだ。委員長と私は同じクラスだったから、共通の知り合いのクラスメイト。それでも、委員長は気にしないで、「あんなの気にしないで入ってきなよ」って私の腕を引っ張って入れてくれたよ。
思えば――あの委員長も私の事を好きだったら良かったな――なんて雨に向かって妄想というか願望というか期待というか希望、みたいな物を抱いてみる。
その後の話は、私は私と大好きな委員長が噂になったら申し訳なくなって、まあ勇気がなかったっていうのもあるけど。でも一番は、私の大好きな人が、クラスで浮いてる私なんかに好意とか恋愛感情なんてものを寄せられたら、迷惑だよなって思ったから。
汚い私は、濡れて帰るのがお似合い。
「大丈夫 !走って帰るから! コンビニで傘買うし!」
そう言って、私は一生懸命笑って、手を振って逃げた。その後は前述のとおり。傘なんてもちろん買わなかった。
委員長とは大学受験でお別れになった。別に委員長が行くからって理由じゃなくて、同じ成績、同じ方面の勉強をしたい。同じ大学が合ってるって理由で、同じ大学の同じ学部の同じ学科を受けた。私も委員長も成績は悪くない。そう、悪くなかった。
何が悪かったのかは思い出したくもないが、私だけが受験に落ちた。他大学に行くという選択肢は家庭の事情でなかった。これも家庭の事情で浪人するという選択肢もなかった。
私に残された選択肢、というか選ばざるを得ない選択肢は、フリーターになることだった。就職活動なんてもう遅かった。
バイトは中々見つからなかった。そんな夜、雨が降って。あの憧れの人とは道が分かれたことを思い出した。
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