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なにかを言いかけている錬二を無視し、一方的に電話を切ると残りのサンドウィッチを急いで食べ、荷物をまとめて帰り支度をする。慌てて階段を下り、丁度目の前にいる店長の佐栄羽さんに訳を話す。
佐栄羽さんと錬二は小学校からの仲で、親友ともいえる人。錬二の唯一無二の親友なので、彼女の私のことも大切にしてくれるし、こういう時融通が聞く。私から錬二の様子を聞いた佐栄羽さんは、心配そうな表情を浮かべもし病院にいくようであれば車を出すし、錬二の風邪が良くなるまではバイトは出なくていいと言う。
「でも、佐栄羽さん。……人手が足りないのでは?」
「今回錬二が倒れることになったのは錬二自身が悪い部分はありますが、それ以上にそんな状況にも気付かず付き合わせた春斗(ハルト)が悪いのですから気にしないで下さい」
そういう佐栄羽さんの視線は、ホールに出ている己斐沢に向けられた。己斐沢は何かを感じ取ったのか肩を思い切りビクつかせ辺りをキョロキョロと見回す。見回した結果佐栄羽さんに行き着いたらしく、顔をサァと効果音が付くくらい青くした。
「彼には後でお仕置きをしておきますから、琴恋ちゃんは安心して錬二の処に行って下さい」
「……あ、はい」
佐栄羽さんは中性的で綺麗な顔立ちをあくどい笑顔で染めながら、シルバーフレームの眼鏡を上げる。その表情を一言で言うならば腹黒だと思う。
(錬二。錬二の言った通り、佐栄羽さんだけは敵には絶対に回したくない人だと再確認したよ、今)
私までビクビクし、それを感じさせないように静かに店を裏口から出て行く。その時聞こえるかわからないけど、小さく本当に小さくお疲れ様と言葉を残してドアを閉じた。走りながらふと先程の佐栄羽さんを思い出し、10年くらい寿命が縮まったような気がした。
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