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店を出て、一時間やっと錬二のマンションに辿り着いた私の手にはスーパーマーケットの袋があり、その中には看病に必要なものが入っている。ここまで買う必要はないかと思ったが、錬二は結構面倒臭がり屋で冷蔵庫の中に材料がなければないで買うという思考にあまりいかない。私の予想だと今冷蔵庫の中はお酒のみになっているはず。
ガチャリ。と合鍵で玄関を開けると、中からこの時期にしては涼しい風がこちらに流れてくる。不思議に思いながら上がると、冷房の音が聞こえた。何かが切れる音が自分の中でした。
バン!!
「こんの、ばっかやろー!!」
「こ、琴恋!!」
リビングのドアを開ければここは真夏でもないのに凄く冷えていた。今は秋の終わり、いくら猛暑続きの夏があり、秋も暑い日が続いていたからといってこれはない。
「錬二、お前馬鹿だろう。そうだろう。そうだよな。この冬が近くなっている時期になにしてる、しかも風邪引いて熱が出ているつーのに冷やしてどうするんだよ。なにがしたいんだよ錬二」
怒りに身を任せ怒鳴りつける。部屋の中心にいる錬二に言うと、錬二は熱で赤かった顔を青く染めた。
「琴恋……」
「こんなことしてたら更に上がるだろ。それになんだよその薄着。体温めて汗かいて熱下げねーと治んねーぞ」
「いや、これには……」
気まずそうに泳ぐ視線に、私は怒りに任せて忘れていた理性を戻す。すると、ふと何時もと違う感じを覚える。風邪を引いた錬二に違和感があるわけじゃなくてこの部屋の中に微かに香水の、しかも女物の香水の香りがするのだ。
ふと、気まずそうに視線を泳がせていた理由に気付き私は手に力を込める。持っていた袋がカサと乾いた音がした。
「……あぁ、そういうこ……」
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