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深夜一時。
パシン、パチッ……
霊が移動する際に発するラップ音に私は目を覚まし、Tが起きないように小さくお経を唱えました。
「南無妙法蓮華経……南無妙法蓮華経……」
五分かそのくらいした時にラップ音はようやく収まり、私はホッと息を吐いて眠ろうと思いました。
「鳴ってたよね……?今パチッパチッって鳴ってたよね?」
Tは起きていたようなのです。
私は「え?そう?気のせいだよ。私何も聞こえて無いよ?」とすっとぼけていました。
しかし
ギシ……ギシ……
天井から足音が聞こえるのです。
おかしいですよねココは最上階のはずなのに……。
「ほら、やっぱり足音するよ!!」
Tが恐怖のあまりおびえてしまい、私は必死に脳内で(南無妙法蓮華経……南無妙法蓮華経……)とひたすら唱えいる間「誰かの悪戯だよ、大丈夫だよ」とTを宥めていました。
しかしこれが一週間も続けば私も怒りが増してきました。
Tに先に寝るなと頭を殴られるといった安眠妨害に睡眠不足になり、仕事に支障が出たのです。
Tよ、私にとって幽霊よかお前の方が一番恐ろしいよ。
そしてある晩私は本で覚えた『歩法』という結界を張ることにしました。
付け焼き刃なので何処まで効果があり、また保つかは分かりませんが『憑き護』の血統を色濃く引く私になら大丈夫だろうとTに気付かれないように結界を張ると、今度は私の方に『来る』ように剃刀でTにお風呂でも見えない場所に小さく傷つけ、流れた血を深夜にTの部屋の鬼門にあたる場所に付けておきました。
かくして、ラップ音と足音は止みました。
Tはそれから良く眠れるようになりましたが、秋に入る頃退職しました。
私はというと冬になるまでラップ音と足音に悩まされましたが、ある夜、私に憑いているモノが強い気(息遣いまでわかるくらい強かったです)を発して追い払ってくれたようです。
皆さんも真夏の怪異には気をつけて。
世の中には私のような人間もいるのですから……。
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