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秋のことだ。男は砂浜を散歩していた。この時期になると、海水浴の客もめっきりと減り、周りを気にすることなく散歩ができた。
「おや?」
男は砂浜で妙な物を見つけた。打ち上げられたビンである。
普段ならば、気にもとめないような、何処にでもありそうなビンだ。
しかし、このビンは妙に男を引き寄せる魅力があった。男はビンを拾い上げ、周りにこびりついていた砂を手で払う。ビンの中身が何なのか、男はビンを日の光りに晒してみた。
中で何かが動いている。ビンの口よりも数倍大きて黒い何かが、ビンの中にいた。
「あの…すいません。ちょっと、話を聞いて頂けますか?」
ビンの中から声がした。空耳かと男は思ったが、間違いなくビンの中から声がしている。
声は弱々しく今にも途切れそうだった。
「誰だ?」
男は思わず聞き返してしまう。ビンの口に合わない中身もそうだが、中から話かけられるなどと思ってもみなかった。
「すいません。声をかけられ、驚かれていると思いますが、私は『悪魔』です」
「悪魔だって!?悪魔とは空想上の存在ではないのか?」
「いえ、悪魔は実在します。こうして、ビンの中に閉じこめられているのが、何よりの証拠です」
ビンの中に閉じこめられている悪魔はそう言って、自己紹介を男にした。
自分は名だたる悪魔であったが、人間の手によってビンに閉じこめられた事。時代が流れ、閉じこめた当事者も亡くなってしまいビンから出られなくなってしまった事。
悪魔は泣きながら男に話して聞かせた。
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