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「…話を続けるぞ。幾ら勇者と云えど、元は只の…少し身体能力が良いだけの若者だ。
魔力なんて概念も勇者には元々無い。なのに、召喚された途端…強大な力を得ている。
それは大きな犠牲の上で成り立っているんだ。
力の無い者に力を与えるには、出来るだけ多くの魔力を持っている人間が選ばれる。
それは子供であろうが関係無くだ。勇者には力も属性も無い。
だから様々な属性を持った者が選ばれ、勇者を召喚する為の贄にされる。」
「話は分かったんだけど…勇者と魔王はずっと戦ってきたんだろ?
何人もの勇者が何人もの魔王と戦ってるけど、何も変わってない。
それって何か意味が有るのか?だって、ずっと同じ事を続けてるだけだろ?」
「正直に言うと、何も意味は無いんだろうな。だが、魔王を倒す事で人間は安心するんだ。
人間には絶対悪が必要なんだ。基本的に…。実際に魔王は魔物を操ってなどいない。
人間側もそれは分かっていても、魔王という絶対悪が全て悪いと決め付ける事で満たされてる。
魔王もそれは分かっている。自分も先代の様に勇者に“殺されなければならない”と分かっているんだ。」
「そうなのか…。ゲームの魔王からは想像も出来ないな。」
「そうだな。大抵の者は自分の運命を呪う。それはそうだろう。
自分が“勇者に殺される為だけに”存在しているなんて認めたく無いだろうし。
中には皆から隠れて、一人で泣いている魔王も見た事がある。
一人で泣きながら、死にたくないと言う魔王を見るのは…正直辛い。
アイツ等は俺の大切な家族みたいな物だからな。
…大衆の掌の上で何も知らずに踊らされている勇者も、殺され、非難される為に存在する魔王も…出来る事なら解放してあげたい。」
悔しそうに言う神様の口調からは、本当に魔王と勇者が大事なのだという気持ちが痛い程伝わってきた。
「なんて…無関係のお前に言う話じゃないよな?ハハハ。」
「そうかもしれないな。でも、あんたは勇者も魔王も大事に思ってるんだなって事は良く分かった。」
「そっか。」
安心した様に笑う神様の顔は、年相応の若者に見えた。
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