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唯とは小学校の頃からの知り合いだった。
と言っても、本人は覚えてはいないだろう。というか、思い出したくも無いのだろう。
唯は名前の事で、俺は家族の事で、軽い嫌がらせの様な物に遭っていた。俺達の共通点は、ただそれだけだった。
初めてアイツに会ったのは小五の新学期だ。当時の俺は少し冷めていた。
新しいクラスになっても何も変わらない。どうせまた悪口を言われるんだし、みんなと話す必要も無いと、そんな事ばかり考える様な子供で…今思えば全然可愛く無かったな。
皆には両親がいたけれど、俺にはいなかった。それだけの違い…でも、確かに其れは大きな違いだったのだろう。
ガラッと教室のドアを開けると、皆こっちを見ていた。そして、一人の男の子が言ったのだ。
「やーい!スーちゃんのスーは捨て子のスーなんだってな!悔しかったら何か言ってみな!」
俺は驚きも無く、悲しみも怒りもせずにただ思った。あぁ、またか。それだけだった。
何時もの事だというのもあるかもしれない。何時もは親友が助けに来るから、今日もそうなんだと漠然と思っていた。
でも…それは違った。
「や、やめろよ!そんなこと…言うのは!」
「お!ブタじゃね~か!何だ?同じイジメられっ子同士、仲良くやろうってか?」
「っ!」
俺は心底不思議に思った。見ず知らずの子供が、友達でも無い俺を庇ってくれているのが…。
可愛げの欠片も無いガキだった俺でも、その少年の事が気になって聞いてみた。
「なぁ。」
「な、何だよ?」
「お前に話しかけてんじゃねぇよ。黙ってくれる?」
「何!?」
「あんた何様なの?何時も偉そうに人の家の事言いふらして。
はっきり言って迷惑なんだよ。そうやって人の話ネタにして、友達でも作るつもりか?」
「な、何だと!?」
男の子は驚いた顔でコッチを見ていた。俺にはその顔が新鮮に思えた。
それはそうだろう。何時もは何も言い返す事もしてこなかったのだから、相手が驚くのは当然だ。
「何時もおんなじ話ばっかりしてるけど…そんなに楽しい?
それに、その子を悪く言ってるみたいだけど…あんた、人の悪口言うために学校来てるのか?
俺はよく分かんねえけどさ、そういうのって…本当に楽しいの?みんなも…楽しい?」
俺の事を悪く言って下品な笑い方で笑っていた連中に聞いてみても、みんな目を逸らすだけで…答えてくれる子はいなかった。
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