幸福を謳う人

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 陽光が陽炎のように、揺らめいては降り積もる。熱気が風に絡み合い、蓄積するような昼下がり。朝から賑わいを見せていた「そこ」でも、ようやく閑古鳥が鳴き声を聞かせ始めるのだった。  王立ギルド『閃空(せんくう)』  レイルラント王国にある戦士ギルドの中でも設立して日の浅いギルドであり、しかし、その一方で広く名の知られたギルドである。  戦士ギルドでありながら所属メンバーの殉職者数は零。通常、自らが「ギルドの顔」として先頭に立ち、任務をこなす役職であるギルドマスターを務める少女の齢は十八とまだ若く、裏方に徹していると云う。クエストの回転率、メンバーの安全性ともに実績として他ギルドの追従を許さない結果を残し、また、会員制による共済的体制等、数多の革新的な制度の導入によって安定した運営を成している。  しかし、殉職者がいないことに関しては危険度の高いクエストを避ける傾向にあることも一因としてあり、他のギルドには閃空を良く思わない者も少なくない。その者達は揃って閃空を「臆病者ギルド」と呼ぶ。  「ふぅ……事務仕事を一人でこなすというのも、中々楽ではありませんね」  ギルドに残っていた最後のメンバーがクエストの受注を終えて出て行くと、ギルドの扉の閉まる音が、まるで植物が養分を取り込むように、木製の壁へと吸い込まれていった。  受付に立つ少女は自身に張られた緊張の糸をほどくように息を深く吐き出すと、崩れるように椅子へと腰をもたれかける。窓から差し込む光が彼女の長い黒髪に溶け込んで、染み入っていくのだった。あるいはそこから放たれているかのようにすら、人の目があれば映っていたのかもしれない。  「……ん。この気配は……ディアンさんですか。そういえばいませんでしたね」
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