幸福を謳う人

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 少女は立ち上がると、一つ伸びをする。髪が揺れ、溜まっていた光が霧散した。  さて、どうしようか。彼ならば別段、放っておいても問題はないのだろうけれども。  少しだけ考えて、彼女は受け付け裏の厨房スペースへと向かった。  「これと……これ。あと、ディアンさんには……」  種類の違うクッキーの入った袋を二つ手に取り、指を宙に迷わせてから珈琲豆の入った瓶を取り出した。  大凡それと同じタイミングでギルドの扉が開き、少女は届くようにと通常より声を張る。  「ディアンさん、こんにちは!今行きますので少しだけ待ってて下さい!」  「ったく……どうして顔も見ずに俺だってわかるんだか……。アイリスには敵わんね。どうも」  入ってきた男性は少女とそう変わらない若い風貌で、受付の奥から届いた声に呆れたような笑みを零すのだった。  ディアン・フィルクレイグ。五年前、閃空が設置された直後、レイルラント王国最大の戦士ギルド「幻楼(げんろう)」から電撃的な移籍を果たした男だ。  齢二十にしてレイルラント王国の五本指に数えられるほどの使い手であり、幻楼には七歳の頃からの所属。当時、神童と名を轟かせていたディアンの移籍には良くも悪くも注目が集まった。移籍が本人の独断と意思に基づくこと以外、移籍の理由は明かされていない。
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