第一章

21/102
前へ
/137ページ
次へ
「嘆くなよ、章太郎。とにかくさ、それはまた帰ってから考えようぜ」  光輝は朗らかな笑顔で、すぐ後ろで薄らとした光を放っている『ゲート』を、親指で差し示した。  人が一人通れるだけの大きさをした『ゲート』は、なんの飾りもない、圧倒的な直線で、長方形に出来ている。  クォーツを持つ者にしか見えないその扉は、何もないところに、突拍子もなく佇んでいる。  これはクォーツでここに飛ばされた先人が残した、《基準世界》――光輝たちのいる世界――への扉だ。 「ああ。考えたって、どうしようもねぇけどな」  章太郎は立ちあがってスラックスに付いた土をぱんぱんと払うと、生気のない顔を上げた。 「悲観的だなー、章太郎は。あ、クォーツ持ってるか、章太郎?」  先にゲートへと踏み出した光輝が、振り返る。 「あるに決まってんだろ。なけりゃ、どうやってここに来たんだよ、ぼくは」 「そりゃそーだ」  光輝が扉に入った。体の半分が入っても、扉の向こうに光輝の体のもう半分は出てこない。それは手品でも見ているような、不思議な光景だった。 「はぁ。今回で、もう五度目、か。こんなに“飛んだ”やつ、他にいないぞ、新入生では」  章太郎は、ぶつくさと呟きながら、ゲートへと吸い込まれていった。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加