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「嘆くなよ、章太郎。とにかくさ、それはまた帰ってから考えようぜ」
光輝は朗らかな笑顔で、すぐ後ろで薄らとした光を放っている『ゲート』を、親指で差し示した。
人が一人通れるだけの大きさをした『ゲート』は、なんの飾りもない、圧倒的な直線で、長方形に出来ている。
クォーツを持つ者にしか見えないその扉は、何もないところに、突拍子もなく佇んでいる。
これはクォーツでここに飛ばされた先人が残した、《基準世界》――光輝たちのいる世界――への扉だ。
「ああ。考えたって、どうしようもねぇけどな」
章太郎は立ちあがってスラックスに付いた土をぱんぱんと払うと、生気のない顔を上げた。
「悲観的だなー、章太郎は。あ、クォーツ持ってるか、章太郎?」
先にゲートへと踏み出した光輝が、振り返る。
「あるに決まってんだろ。なけりゃ、どうやってここに来たんだよ、ぼくは」
「そりゃそーだ」
光輝が扉に入った。体の半分が入っても、扉の向こうに光輝の体のもう半分は出てこない。それは手品でも見ているような、不思議な光景だった。
「はぁ。今回で、もう五度目、か。こんなに“飛んだ”やつ、他にいないぞ、新入生では」
章太郎は、ぶつくさと呟きながら、ゲートへと吸い込まれていった。
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