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光輝は片腕で顔をガードし、もう片手をその背中へと必死に伸ばす。
「う、う」
しかし、背中はじりじりと遠ざかるばかりだった。ちらりと目線を後ろに向ければ、もう砕けたアスファルトを牙のようにささくれ立たせたクレバスが、すぐそこにある。
光輝は危機を脱するために利用出来るものがないか、周囲に目を走らせた。
「わ、わぁ、あ」
そして、光輝は絶望した。
光輝の目に映る景色は、破壊一色に染め上げられていたからだ。
辺りはビルや地面までが、倒壊し、めくれあがり、渦を巻いている。
ひしゃげた自動販売機、空を木の葉のように舞う自転車……まるで世界がそのまま洗濯機に放り込まれたような惨状を晒していた。
こんなの、どうやっても逃げられるわけがないよ――。
光輝の心が折れた刹那、低く重い安心感のある声が、響き渡った。
光輝にとって、それは雲間から射し込む金色の陽光、エンジェル・ラダーのように思えた。
「大丈夫だ、光輝。安心しろ。父さんが、ここにいる。お前を、絶対、死なせはしない」
「と、父さん?」
それは、光輝の父、南条彰(あきら)の声だった。
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