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「しゃーない。イマジカさぼれとはいえないし」
そう言って形のよい口をへの字に曲げると、長身の彩果は頭をかいた。
顔から首筋、それに半袖のシャツも汗でびっしょり濡れているのに、彩果からは柑橘系の爽やかな匂いが届いてくる。汗くささなんてかけらもない。さすがサヤちゃん、と茶美はかんしんした。
「お先に失礼しまーす」
バックを持った茶美が、扉の前に立って大きな声で言う。
「あれ、茶美、帰っちゃうの?」
「ちゃーちゃん、ナレ撮りなんだよ」
「えー、茶美がいなくなるとさみしいわあ」
「ナレ撮りがんばってねー」
「夜道の一人歩きには気をつけろ」
「悪い男の誘いにホイホイついてくなよ」
「なにソレ。茶美は彩果と違っておかたいから大丈夫」
「ちょっと、それどういうことよ。まるでわたしが男にいいよられたらなんでもかんでもうれしくなっちゃって、誰かれかまわずみさかいのない、どうにもこうにも救いようのないメス豚だとでもいいたいわけ?」
「そこまでいってないでしょ」
「彩果はかたいんじゃなくて、高いんだよ。お高いの」
「そう。贅沢(ぜいたく)を極めてるからね、彩果は」
「つまり、わがまますぎ」
「わがままでいいでしょ。どうせうみねこは恋愛禁止なんだから」
「そんなことより、ちゃーちゃん、帰るんだよ」
「茶美、まったねー」
「ばいばーい」
「達者でなあ」
メンバーは口ぐちに茶美に声をかけてくれた。
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