茶美の足あと

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「茶美、いくぞ」  リハ室の外で待っていたマネージャーの坂口が扉を開け、低い声で言う。 「やることはいつものとおりで、九時前には終わるだろうって、丸山Dがいってたから。終わったら電話かメールくれ。明日は完全オフだし、しっかり学校で勉強に励むように」  そう言って坂口は笑い、更衣室の前で別れた。  着替えを済ませると、茶美はスタジオをでた。  アイドルとはいっても、必ずしも現場へマネージャーがついてくるわけではない。一人で、または他のメンバーと一緒に電車やバスを使い、テレビ局やスタジオ、イベント会場へいくことのほうが多かった。  常にマネージャーが帯同(たいどう)して手とり足とりお世話をしてくれるなんていうのは、百年早い、といった感じだ。  このあと茶美は、イマジカの品川プロダクションセンターで、CS放送番組“パワフルうみねこナイン”のナレーション撮りをすることになっている。毎週メンバーが交代で録音することになっていて、今週は茶美に順番がまわってきた。  当然のようにマネージャーは同行せず、茶美は一人で、国道246号沿いを南青山方面へ歩いた。  通りを急ぐ人の数が、昼間よりも増えている。五時を過ぎているので、会社帰りの人たちが夕暮れ前の歩道に姿を現し始めているようだ。  地下鉄表参道(おもてさんどう)駅への階段を下りる。
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