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「あ、あれ、うみねこリンクの子じゃない?」
若い女の声が耳に入る。嬌声(きょうせい)に近い甲高い声だ。
とっさに茶美は逆方向に歩いた。
たまにだけれど、街で声をかけられることがある。
「うみねこリンクのメンバーですよねえ?」
茶美程度の知名度では、ほんとにごくたまにしかないことなので、
「はい」
と返事をして、握手をしたり、サインをしたりすることはたいして負担にならない。
邪険(じゃけん)にするなんてもっての他だし、むしろ、
「うみねこリンク、よろしくお願いします」
と笑顔で言って頭を下げる。
それでもこまるのは、急いでいる状況で呼び止められることだった。
「ごめんなさい。今急いでるので」
と、話しかけてきた二十歳くらいの女性に謝ったことがあった。
去りぎわに、茶美の心臓は凍(こお)りついた。
その女性の顔は、般若(はんにゃ)のお面みたいになっていたのだ。
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